景気後退のその先:今こそ主導権を握るべき製造業のためのエンタープライズシステム戦略

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Japan-February 14, 2023, 04:00 PM

景気後退への懸念が高まるなか、メーカーが不況を乗り切り、その後繁栄するには、ERPの近代化が必要です。インフォアジャパン ソリューションコンサルティング本部 本部長 佐藤 幸樹が、今求められる製造業向けERP戦略について考察しました。

不況下のERP近代化

3年経過した今でも、パンデミック関連のたび重なる混乱がメーカーを苛立たせる元凶となっています。そうした混乱の結果、私たちは現在世界的なインフレに直面しています。このインフレは景気後退を招くのでしょうか? 多くの有識者がそうであると述べており、すでに景気は後退しているという声も上がっています。

ERPシステムのモダナイゼーション(近代化)は、通常、企業が組織のパフォーマンスを向上させるための最も強力な手段となります。ERPは、事実上、組織運営を支える基幹であり、データやインサイトの源として分析にもとづく洞察を可能にします。とはいえ、景気停滞期には、企業は近代化によるメリットとコストのバランスを取らなければなりません。モノリシックでコストのかかるERPの導入は、景気後退の最中では認められないのが一般的です。アプリケーションリーダーは、戦略を用意して、ビジネス主導のアプローチで段階的に機能を近代化し、価値を最適化することが求められます。

ERPをおおまかに分類すると、代表的なものとして財務管理システム(FMS)、人的資本管理(HCM)、企業資産管理(EAM)、サプライチェーン管理(SCM)が挙げられます。理想的な環境としては、どの企業もすべての領域で最先端であることを望みます。しかし、景気後退の圧力のもとでは、望ましい成果をもたらす新機能に優先順位を付けて順番を決めることに苦心している企業がほとんどです。CFOは、製造を中心としたERPの機会をないがしろにして、財務中心のERPの導入や近代化を支持する傾向があります。経済が不安定な時代に、財務およびITアプリケーションのリーダーに必要なのは、近代化のロードマップに対するコンポーザブルなアプローチです。利害関係者にとって賢明な選択肢は、コアERPを財務中心としたまま、サブERPで製造関連の課題に取り組むことができる2層ERP戦略を運用し、コストとリスクを抑えながら、タイム・トゥ・バリューを迅速に得ることです。

普及が進む2層ERPシステム

ERPは、過去30年間で、モノリシックで財政中心的なフレームワークから現在のコンポーザブルなフレームワークへと進化を遂げています。そして、会計や注文管理といった従来のERPコア機能に加えて、「エンタープライズビジネス機能」を提供するアプリケーションの時代に突入しました。これにより、分散型アーキテクチャが構築され、コアとその他のビジネス機能の間にバッファができました。企業は、サプライチェーンチェーン管理ソフトなどのビジネス機能をはじめとする魅力的な新技術を、ERPの総入れ替えを危惧して見送る必要はありません。

このアプローチは、2008年の経済不況から始まっています。企業は、IT予算を大幅に削減し、より少ない予算でより多くの成果を達成することを余儀なくされました。大規模なERP移行が予算の壁にぶつかったことで、レガシーERPアプリケーションを含む既存システムの改善が重視されるようになります。既存システムの機能を維持しながら、新たな機能をサブのシステムに移行することが、全社的なERPのビッグバン導入で失敗するリスクを避けつつ価値を引き出すための近道となりました。

2層ERP戦略を採用することの多い大規模な多国籍企業では、全社的には共通の基幹業務のためのコアERPを使用し、子会社ではビジネス固有のニーズに対処するためのサブERPを使用しています。通常、子会社のニーズは親会社のニーズと異なり、それほど複雑ではありません。子会社が親会社のERPよりもシンプルで専門的なシステムを求めている場合、2層ERPソリューションは、財務および人材管理を中心としたコアERPと、子会社の目的に合ったサブERPの間を線引きできる最善策と言えます。

昨今の状況から、メーカーの大半は、製造拠点の国内回帰や近隣国回帰によって、サプライチェーンの大規模な再構築に取り組んでいます。また、経済停滞を受けて、買収による合併が加速する見込みです。さらに、ほとんどの企業は事業全体を通じてマルチベンダーのエンタープライズシステムを扱うことになります。2層ERP戦略では、本社および各拠点をひとまとめに考える必要がありません。その代わりに、組織の運用要件と併せて、各拠点のニーズも考慮しながら、多様なニーズを満たすために容易に連携することができる最適なシステムを採用することが可能です。

たとえば、大企業が複数の企業を買収した場合、こうした戦略が特に重要になります。たいていの企業が、それぞれのレガシーERPを持っています。各社が長年使ってきたレガシーERPシステムの保持を回避すると同時に、コアERPシステムの中断を避けるための最善策が、2層ERPのアプローチです。これにより、製造業務または異なる事業体、部門、子会社は同じサブERPを使い、一方で、全社的には同じ財政中心のERPシステムを使いつづけることができます。

多様化と新たな市場機会の模索が進められる今日の状況では、組織がその基幹ビジネスモデルの範囲外となる業界で展開するビジネスユニットのサポートを切り上げることも可能です。その場合、組織の既存ERPシステムは、おそらく、新しいビジネスユニットを効果的に管理するための主要な機能の一部を欠くことになります。異なる事業体間のプロセスやワークフローをつなぐには、特定の業界向けの機能を搭載したERPシステムが役立ちます。

2層ERP導入のコスト節約効果が注目されるのは不況下ゆえ当然のことですが、コスト以外の観点からも次のようなメリットがあります。

  • 2層ソリューションでは、システムの構成が比較的容易になるため、子会社が自社のシステムを管理しやすくなります。2層インフラは、迅速に導入することができ、高い費用対効果が得られます。大半の場合で、導入にかかる時間とタイム・トゥ・バリューの大幅な短縮が実現できるため、経済停滞期には競争優位性を発揮します。
  • 組織は、新たな脅威と機会に絶えず適応していかなければなりません。大規模な多国籍企業の子会社は、さまざまな競争力にさらされながら、各地域の成長環境で発展する必要性に迫られています。2層戦略によって、子会社は地域の課題に対処しやすくなります。
  • 競合との差別化要因となるビジネスプロセスをコード化または自動化でき、組織の機能をERPに合わせるのではなく、ERPを組織の機能に適応させることができます。組織にとってビジネス戦略の「秘伝のタレ」であるビジネスプロセスやワークフローを自由自在に採用し、調整することができます。
  • 大規模なERPソリューションが提供する包括的な機能や拡張性のメリットを得ながら、業界に特化した機能も活用することができます。
  • 業界特化型で製造中心のサブソリューションを採用することで、生産レベルのワークフロー、部品調達、在庫管理、生産プロセス最適化の自動化が可能です。

2層ERP戦略に最適なソリューションの選択

もちろん、ERPソリューションならどれでも、2層ERPシステムに対する製造業の要件すべてを満たせるというわけではありません。メーカーは、包括的な機能性と柔軟性を備えた、総所有コストを低く抑えることができる2層ERPソリューションを探す必要があります。企業が2層ERP戦略を機能させるためのカギとなる事柄は2つあり、ひとつは工場の業界に特有なニーズをERPシステムに組み込むことです。もうひとつは、他のERPシステムや業界特化型アプリケーションを統合することができ、いつでもどこでも迅速かつ簡単に実装できる柔軟性を備えた、クラウドベースのERPシステムにすることです。

クラウドベースのERPソフトウェアは、オンプレミスで展開されるソフトウェアと比べてはるかに大きな利点があります。最適なクラウドベースのソリューションであれば、ERPシステムを迅速に実装し、既存システムと容易に統合することができます。社内の貴重なITリソースを割かずに、いつでもどこでも利用できて、真の意味でグローバルな機能を備えています。組織全体を単一の多目的ERPシステムで縛りつけるのではなく、異なる業種のニーズを満たすことが可能です。その結果、ビジネスの俊敏性、リスク管理、コスト管理のすべてが劇的に改善されるのです。

この不確実な時代に、企業は景気後退を乗り切るだけでなく、その後繁栄するための戦略に焦点を当てて計画を立てなければなりません。不況のたびに、勝者と敗者の間で業績の格差が広がります。今はデジタルトランスフォーメーションをなおざりにせず、コストを低く抑えてより多くの価値を生み出すための取り組みへと賢く投資するべきときです。

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