食品のサプライチェーン、農業のIoTなど、サステナビリティへの貢献をデジタルで考える

sustainability energy

May 29, 2022担当 北川 裕康

最近、SDGs、サステナビリティへの関心が飛躍的に高まっていると感じます。環境破壊の影響を肌で感じますからね。私は、実は兼業農家で生まれ育ったので、農業への関心が強くあります。ただ、機械化が十分でない時代に農業をやったので、腰が痛い思いでしかないです。

日本にいると実感があまりないですが、世界の人口は、2050年には97億人になると予測されています。増加率は1967年をピークに低下していますが、年々、この2050年の人口予測は増えてきています。併せて、2030年までには、発展途上国の中間所得の世帯が340万までに増えます。これによって、農作物需要が今後20年で1.5倍に膨らむと言われています。その人口への供給が大きな課題です。一方で、世界の農耕地に適した土地は限りがあります。地球温暖化の影響も大きく、上記どおり農耕地は限られますので、どこかの地区の天候不良での不作が世界にまたたく間に影響してしまいます。不作やバイオマス燃料の影響での世界的なトーモロコシの値上がりのニュースを、よくみますよね。ロシアのウクライナ進行でも、大穀物地帯ですから、大きな影響を及ぼしています。そして、既存の農耕地も砂漠化などで減少中であり、新しく開拓するとなると環境破壊を誘発してしまいます。「カロリーベース」で計算された日本の食料自給率は約4割で、輸入に頼っている日本は20年後どうなるのでしょうか。

また、地球温暖化も深刻で、毎年のように災害級の雨に見舞われており、二酸化炭素削減は命題になっています。マッキンゼーのレポートみると農作物生産から排出される二酸化炭素は全体排出量の27%を占め、これは工業からの排出33%の次にきます。我々の未来には、農作物の確保と二酸化炭素排出の深刻な課題があるのです。

食料廃棄の課題もあます。日本政府は、おにぎりを使って、食品ロスの問題を分かりやすく呼び掛けていますね。平成28年度(2016年)の農林水産省の推計によると、日本国内の食品ロスの量は年間およそ643万トンだそうです。これをおむすび1個150gとして計算すると、1日辺り約1億個分に相当するというものが、ACジャパンのCMです。すごい量です。世界の生産、加工、流通までで考えるととんでもない量になると想像します。

どのように農業の生産量を上げるか、どのように食料ロスを少なくするか、どのように二酸化酸素の排出を抑えるかなど、課題が見えてくると思います。もちろん、前提として、SDGsの掲げる目標で、サステナブルな社会を作って行く必要があります。そのためにITやデジタルが貢献できる2つの分野を紹介します。

農場から食卓までのサプライチェーンのデジタル化

食費ロスを減らすためには、生産、加工、流通、消費の全体を考える必要があり、これらの点を結びつけるサプライチェーンのデジタル化が重要になります。食品・飲料メーカーは、トレーサビリティ機能を加工工場の壁を越えて、川上から農家、川下から消費者にまで拡大して管理する必要があります。農場から食卓までのサプライチェーンの点と点をつなぐのです。

そのためには、データ交換、コンプライアンス、サプライチェーンの透明性を合理化するデジタルプラットフォームが必要になります。例えば、工場での加工と収穫の量、質、時間を同期させることで、食品生産者はサプライチェーンと生産をより適切に管理することができます。すべての点がつながれば、より迅速なトレーサビリティ機能が得られ、消費者への透明性が高まるだけでなく、食品の安全性の向上、廃棄物の削減、そして地球へのより良い供給に必要なデータを収集することができます。データで全体を可視化して、改善するという基本中の基本です。食品はついては、可視化のために、サプライチェーンのトレーサビティが重要になります。トレーサビリティは、リコール対策の安全面で必須項目です。

そのために必要なデジタルプラットフォームは、このような農場から食卓までをデジタルでつなぐプラットフォームで、IoTなどですべてのデータを捕捉して、それをAIや機械学習で分析して、モノの流れトレースできるものです。何処でムダが発生しているかを捉えることができます。今のテクノロジーであれば、実装にそれほど難しいものではないと考えます。ただ、多くのステークホルダーが連携し合う必要があります。

デジタルで農業の生産性を向上

農業の生産量を上げるには、色々な取り組みがあります。ぱっと思う浮かぶもので、バイオによる品種改良、農機具の改良やドローンやGPSを使った自動化、肥料の最適料の配布、土を使わない農業などです。そんな中、私はITの人間として注目しているのは、精密農業です。多くの方には、聞き慣れない言葉だと思います。

Wikipediaを見ますと、「精密農業(せいみつのうぎょう)とは2000年代初頭より導入されている概念で農地・農作物の状態を良く観察し、きめ細かく制御し、農作物の収量及び品質の向上を図り、その結果に基づき次年度の計画を立てる一連の農業管理手法」とのことです。スマート農業とも言われます。

農耕地は場所によって、土壌の状態や日照の条件がことなります。農地(圃場:ほば)を区画に区切り、区画ごとにセンサーで湿度、温度、土壌の状態を図り、気象情報やドローンで取得したデータを組み合わせて、分析して、肥料や水などを最適化して収穫を最大化するのです。二酸化炭素を計測して、収穫時期を最適化するということもされるようです。精密に管理して農業をするので、精密農業なのです。

ここでもセンサー技術およびデータ分析の発展が大きく寄与しています。工場ではなく、農地のIoTなのです。そういえば、SAS Instituteのソフトウェアの開発の始まりは、ノースカロライナ州のタバコ畑の分析と聞いたことがあります。このように、統計やアナリティクスは、農業の発展に貢献してきたのです。センサーについては、農林水産技術会議の資料「日本型精密農業を目指した技術開発」をみると、「収穫適期を判定するための有力な方法としてリモートセンシンクかあります。リモートセンシングとは、人工衛星や航空機などに搭載されたセンサーによって、地表にある植物の状態を直接触れずに調査する方法です。人工衛星等を利用した広域リモートセンシングと圃場内での調査に利用する近接リモートセンシングに大別されます。」とあります。センサーも色々あります。

ただ、精密農業には課題はあります。一番大きなものはROIが実現できるかどうかです。日本の農業は規模が大きくないので、センサーなどの投資に見合う資金の回収ができるか鍵です。このあたりで、米国などの農業のITに遅れをとっているのだと思います。規模が異なる米国では、GPSやドローンを使った農業がかなり普及しているようです。また、日本では、台風などの自然災害はコントロールが難しいというのも課題です。せっかく細かな管理をしても、1つの自然災害で吹き飛ばされてしまうことがあります。

「サステナビリティは地球に対するスチュワードシップであり、食品廃棄物を減らすだけでなく、土地、飼料、食品、水、エネルギー、そして人々の時間など、あらゆる廃棄物を減らすことができるのです。」という言葉を見たことがあります。スチュワードシップとは、他人から預かった資産を、責任をもって管理運用することであり、私たちは地球を預かって大事に運用管理するという概念が必要なのでしょう。そして、運用管理にはIT、デジタルは不可欠です。

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